医療コラム
『お母さん、結核って何?』BY黒川先生
先日、ワクチンの相談を受けているときにお子さんの言葉です。結核はかつて日本で亡国病、国民病と呼ばれていました。あれから約100年経った今でも結核は世界三大感染症の一つです。確かに結核は普通に日本で生活している人が目にするのは、インフルエンザやコロナに比べたらほとんどないでしょう。それでも結核は恐ろしい病気に間違いはないのです。ではなぜ結核が過去から現在まで恐ろしい感染症であるのでしょうか。
まず結核が空気感染をするという点が疾患として厄介です。インフルエンザやコロナのメインの感染経路は飛沫感染で唾と一緒にウィルスが放出されます。これは感染の射程として大体数メートル程度にとどまります。しかし空気感染ではふわふわと結核菌は空気を漂い射程は飛沫感染の2〜3倍となります。そのため日本では結核感染者が感染を撒き散らさないための特別な病室を使います。
感染の射程は他の病気に比べてかなり広いですが、実際に感染したとしても一生発病しない人が約9割です。残りの人は半年から2年ほどの潜伏期間を経て発病するか、体内に巣を作り体力がなくなったり免疫が低下したりすると発病します。結核は全身のいろんな場所に感染しますが主に肺に感染します。症状は咳、痰、血痰、胸痛などの呼吸器関連症状と、発熱、冷汗、だるさ、やせなどの全身症状がありますが、ゆっくり数週間かけて進行するため初期には気づかず病気が進行したり、周りに感染させたりします。
広い射程の感染力、気付きにくい自覚症状、体内での潜伏などがあり結核は今でも世界的に厄介な感染症の一つです。しかしワクチンや衛生環境の向上で日本で一時は国民病、亡国病と言われた結核は名前を知らない人がいるくらいまで患者数が減りました。それでも近年結核の患者数は日本国内で増えております。高齢化で免疫が低下している人が増えているのと、発展途上国からの流入があることなどが原因で、現在日本で結核にかかる人は毎年十万人に十人前後というデータが出ています。ちなみにベトナムは十万人に対して百人は超えているので日本の十倍感染者がおります。こちらに来て日本人の方で何人か、結核感染を確認しておりますので原因不明の痰、咳、微熱、倦怠感などがありましたらご相談ください。
Written by Dr Kurokawa 2022.8.3